「サザエさん」とともに地域にある長谷川町子美術館・記念館

——桜新町には駅の近くから美術館まで続く「サザエさん通り」がありますが、どのような経緯で名前がついたのでしょうか。

川口:美術館がオープンした2年後の1987(昭和62)年に「サザエさん通り」という名前がつきました。桜新町には川信という町子さんもよく出前を頼んでいた鰻屋さんがありますが、そこの亡くなったご主人が商店街の理事長をやっていたんです。ある日私の元に理事長らが訪れて、この名前のない商店街に「サザエさん通り」と名付けたいのだけれどどうでしょうかと。町子さんと毬子さんに話したら、「川口くん、サザエさんはいつまでも続かないのよ」とパッと言われました。そこが町子さんの謙虚なところでもあるんですが、自分の作品が長く続くとは限らないのだから、『サザエさん』が売れなくなったらどうするのかということを心配されていたんですよね。そう伝えて一旦引き下がった商店街の方々が、数日後にまた訪ねて来られて「(この名前で)永遠に続けます!」と。その熱意に、それならばと承諾したのです。木材に町子さん自らサザエさんの顔を描き、そこに長谷川美術館と書いて商店街に掲示する看板を作りました。ベース型の金属に絵を描いた看板や、通りの命名を記念して、商店街の依頼で桜の木にサザエさんがぶら下がっている絵のテレホンカードも作りました。

川口:桜新町商店街とのつながりはここからスタートし、私も商店街の個々のみなさんとも知り合うようになりました。当時はチェーン店もなかったですし、個店の方々って自分の町をよくしようという気持ちが強くて、ここの商店街は電柱の地中化もかなり早い段階でやりましたし、精力的ですよね。

——美術館を訪れた方に、どのように桜新町を楽しんでもらいたいと思いますか?また課題に感じている点はありますか?

橋本:桜新町商店街と長谷川町子美術館・記念館は、相乗効果で盛り上げていきたいと思っています。歩いて楽しい町なんですが、美術館・記念館は土日の来訪者が多いなかで、商店街の個店はお休みのところもあるのが少し残念なところでしょうか。

川口:東京都内でも、西小山や烏山や戸越などの商店街は、土日にやっているんですよね。お勤めの方々は土日しか動けないことが多い。個々には土日にやっているお店がありますが、そこは町全体で考えていって欲しいです。

桜新町商店街には並々ならぬ想いのある川口さん

橋本:桜新町にはサザエさんの銅像が何箇所かあります。美術館では、銅像マップのほか、商店街のマップを作って美味しいお店などを紹介ししたり、桜の季節は桜の見どころもご紹介します。展示や桜を見に来たら、こんなところにカフェが、お蕎麦屋さんが、とか気づきがあるとより魅力的に町が浮かび上がるのではないかと思います。

川口:桜新町には、桜神宮も久富稲荷神社もあります。桜新町は個店がものすごく楽しい。チェーン店の存在は少しさびしいのですが、チェーン店でも顔の見えるような店舗もありますし、双子の給水塔や、馬事公苑など、桜新町を起点にこんなところにも行けるというのを商店街としても伝えていけるといいですよね。

橋本:美術館・記念館のスタッフはほとんど近隣在住です。近隣の方に愛してもらいたい美術館・記念館にしたいと思っているので、桜新町のことは何でも聞いてほしいです。

川口:余談ですが、美術館・記念館近くの交番の前にもサザエさんの銅像が立っていて、駅前の歩道を向いているものとは違って車道側を向いています。あのサザエさんは、商店街を見守ってくれているんです。

長谷川町子記念館で、取材日にいらしたスタッフのみなさんと

——美術館がある桜新町の魅力は何だと思いますか?

川口:本当にあたたかい。この町の人も、雰囲気も。町を歩くと、何人と挨拶するかわかりません。幼稚園児から年配の方まで。ここまでのあたたかさは、よその町では感じたことがありません。

橋本:こじんまりしているところも魅力ですよね。通りを挟んで向こう側の声が聞こえるからこそ密に連携できる距離感も生まれていると思うんです。同じサザエさん通りでも、福岡との決定的な違いは道幅なんです。以前、歩道を拡げられないかという話もありましたが、狭さを利用したことをやりたいですね。「ねぶたまつり」のときにはそうなるみたいに、歩行者天国にして、商店街のあちこちで買ったものを飲み食いできたらいいですよね。今は、コロナ禍でできませんが。ここは、いろいろやろうと思えばできる町なんです。

桜新町の魅力について語る川口さん(左)と橋本さん(右)

川口:サザエさん通りを歩行者天国にしてテーブル出していいようにするとかね。「サザエさん」というキャラクターは最大限に利用して、でも何かを進めるのは町の全員でやらなければいけないなと思っています。

橋本:福岡のサザエさん商店街通りみたいにいくつもの通りがつながっているわけではないので、桜新町は元々の商店街と美術館が相乗効果で盛り上がっていきたいですね。

川口:コロナ禍でも何かできることはあるはずです。我々の美術館・記念館もあるこの町で、「サザエさん通り」だけではなくて、同じ桜新町の商店街として、連携してやっていけたらと思います。本当に魅力のある町なので、それを感じている商店街の人たちといっしょにやっていきたいですね。このウェブサイトで、この町のさまざまな魅力的な姿を紹介していってほしいです。

[取材日] 2021年7月9日
[聞き手・構成・写真] 米津いつか

長谷川町子記念館外観 (写真提供:長谷川町子記念館)

長谷川町子美術館・長谷川町子記念館
[所在地] 東京都世田谷区桜新町1-30-6(美術館)
[電話番号] 03-3701-8766
[アクセス] 東急田園都市線 「桜新町駅」下車 徒歩7分
     東急バス【黒07】目黒駅〜弦巻営業所「桜新町一丁目」下車 徒歩1分
[ウェブサイト] https://www.hasegawamachiko.jp

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