山沢薬局 代表 山澤 功 さん

――お店はいつ始めたのかを教えてください
戦後、両親が結婚してまもなく開業したそうです。最初のお店の場所は桜新町交番の近くでしたが、私が生まれる前、1952年頃に今の場所に移ったと聞いておりますので、おかげさまで70周年になります。私が生まれたのは宮崎医院(現在の宮崎整形の先々代のおばあ様が産科の先生でした)、保育園はひなづる(かつて商店街の子ども達を預けるためにできたという保育所が前身で現在の桜新町区民集会所の所にありました)。小・中学校ももちろん地元、桜町小に深沢中学です。まさに商店街で生まれ育ったので、“店を継ぐ”という事は当然の事のように思っていたのかもしれませんね。大学卒業後に化粧品会社や京都の老舗薬局で勉強させて頂いた後、桜新町に戻って来ました。

――かつて集団就職の受け入れをしていたのですよね

桜新町の商店街は集団就職受け入れの先駆け的存在だったと聞いています。商店街の代表が新潟や東北など各地の学校へ説明に行き、募集をしたそうです。「金の卵」といわれた若者たちが故郷を離れ、不安や夢を胸に抱きながら夜行列車に乗って、大勢やって来たそうです。その方たちが日本の高度経済成長を支えてきてくださったのでしょうね。
我が家には、両親の故郷である石川県と青森県出身の方が多かったです。そして当時はどこのお店も従業員は“住み込み”で、家族もみな一緒に暮らしていました。店の仕事はもちろん家事も交代で、お弁当なども作ってくれました。

1965年の山沢薬局

――その従業員さんたちはずっと桜新町商店街で働いていたのですか
故郷へ帰って結婚された方もありましたし、東京で独立して開業された方も多かったです。当時、商店街全体の従業員さん達の親睦を目的とした「さくらんぼの会」という会がありました。私は当時の店員さんと現在も親しくして頂いております。昭和37年頃は桜新町商店街には就職や縁故関係で百数十名の店員さん達が従事し、それぞれが各店の有力なスタッフになっていました。しかし、その中には友達もなく一人淋しく挫折する店員も少なくありませんでした。そのような仲間を何とかしたいと、商店街のバックアップを受けて発足されたそうです。休日にはハイキング、スケート、フォークダンス、野球やバレーボール、ガリ版刷りの文集発行など様々な活動を通して会員同士で親しく友情の輪ができ、商店街の求人募集の際にも「桜新町にはさくらんぼの会があるから心配ないよ。と言って頂けるようになったんだよ。」と目を細めて懐かしくお話ししてくださいます。私もお兄さんやお姉さんたちがとても楽しそうにしていたのを子供心によく覚えています。さくらんぼの会の御縁で結婚された方も多かったようですよ。また、商店街では従業員教育にも力を入れていて資質を高める教養講座や店員教室。華道や書道、接客マナーや話し方教室など、新年の集い、成人式等々、商店街全体で「人を育てる」という大切なことに取り組んでいたようです。この商店街の礎を築いてくださったご先輩方のご努力には、本当に頭が下がります。

――商店街はどういう雰囲気でしたか
昔はほとんどが個人商店でした。「商店街は横のデパート」というキャッチフレーズがあった程、お客様は地元の商店街ですべてのお買い物をしてくださった時代だったようですね。お客様もお店の人たちも、顔も名前も家族関係もみんな知っていて、店員さん達が自転車で御用聞きや配達に回っていた時代ですからね…。大型店や全国展開のチェーン店などが多くなってしまうと店主の顔や個性が見えなくなってしまい、どこのまちでも同じような風景になってしまうのは、やっぱり寂しい気持ちになるのは否めません。

――今の、そしてこれからの商店街に期待することをお聞かせください
桜新町といえばやはりサザエさんと桜を抜きにしては語れないと思います。地下鉄の階段から外に一歩出ると、駅前通りに見事に並んだ八重桜たちが出迎えてくれます。桜花爛漫春四月には辺りはまさに桜色に染まります。昔に遡れば大正時代に東急による宅地開発時に千本以上のソメイヨシノが植えられ、今も長谷川町子美術館の前や呑川沿いに桜並木がありますが、バスが通る前までは、現在のサザエさん通りも深沢のような桜並木だったそうです。そしてもう一つ、このまちの昔を語る上で欠かせないのは、路面をガタンコトンと走っていたチンチン電車、通称「たまでん」です。明治40年開通の「玉電たまでん」は、昭和44年に約60年の歴史に幕を下ろしました。まちの人たちが総出で別れを惜しんだ花電車は忘れられません。そして昭和52年に現在の田園都市線・桜新町駅が開通し、同時期駅前に八重桜が植えられ、桜新町の新たな名物となりました。チンチン電車は地下鉄へ、ソメイヨシノは八重桜へと変わり、まち並みも大きく変化しましたが、昔から変わらないもの、いいえ、変わって欲しくないものは「おはよう!」「おかえり!」の明るい声と笑顔が行き交う、まちの人々の温かい思いです。

やはり商店街は、ふれあい、語りあい、支えあいの場であってほしいと願うばかりです。そう、これまでもそしてこれからも…

――次はどなたにお話をおききしましょうか?
神田屋すしの金子さんにお願いします。彼が人の悪口を言っているのを一度も聞いたことがありません。本当に見習いたいところがある方です。

【店舗情報】 山沢薬局
【 住  所 】 東京都世田谷区桜新町2-14-20 2F
【営業時間】 定休日  日曜・祝日
       10:30~19:00
【電話番号】 03-3429-5935

聞き手 吉池拓磨(桜新町商店街振興組合スタッフ)
インタビュー日:2021年11月25日

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