——お店の成り立ちを教えてください
祖父と祖父のお兄さんが愛知から東京に出てきた修業したパン屋さんがFujiyaさんだったと聞いています。それで暖簾分けのような形でお店を持ったのが桜新町でした。
「萬豊」さん「丸新」さんと一緒に日本で初めて集団就職を受入た店舗だと聞いています。なのでうちにも住み込みの職人さんがいましたし、多い時には「Fujiya」の暖簾分けの店舗が20店舗近くありました。
——どのタイミングでお店を継ごうと決意されたのですか
最初は普通にサラリーマンになるつもりでした。大学も理工学部の電気工学科ですし。でも、大学入学直前のタイミングで父が病気で亡くなってしまったんです。祖父も元気でしたし、母や職人さんもいたのでお店は回っていたのですが実家の仕事を見ていくうちにパン屋さんを継ぐことを決意して、大学卒業後は神戸屋に就職をしました。
——子どもの頃のからまちを見続けていますが、どのような地域だと思いますか
昔はお肉屋さんや八百屋さんお魚屋さんもたくさんあり、パン屋さんももっとありました。交番奥の敷島屋さんの通りも今は住宅が多いですがほとんどがお店屋さんでした。私もそうですが一家三代にわたって歩きながら買い物ができるようなほのぼのとした雰囲気がありましたし、親子でのんびりとお買い物をする姿はいいなぁと思いますね。
——商店街の理事長なども経験されていますがまちづくりの部分は常に意識されていたのですか
私ではなく前の理事長時代の話ですが、ショッピングプロムナード事業は商店街の大きな事業ということもあり、まちの将来を多くの人が考えた出来事でした。電柱の地中化を行ったり、街路灯の修繕、セットバックといって店舗を道路から店舗の敷地を後退させることで歩道を広くする事業を行いました。その根底にはそんな意識があったと思いますし、ねぶたまつりはこの事業があったから開催をすることができました。
私の理事長時代は長谷川町子美術館や世田谷区など地域の方々と協力をしながら、駅前のサザエさん一家の銅像設置を行いました。結果として多くの方に写真を撮ってもらったり、桜新町のシンボルとして多くの世代に興味を持ってもらえる手助けになったかと思います。
※ショッピングプロムナード事業とは
世田谷区のショッピングプロムナード整備事業のモデル商店街として、実施された2つの道路(都道と区道)の整備事業。電柱の地中化・街路灯・駅前ベンチ・車止めなどが一新され、桜新町街づくり協定も定められた。構想は1982年 1994年~2004年の期間事業が行われた。
——商店街事業は加盟店舗のことだけでなく、地域住民のことも考えた事業を行っているんですね。
もちろん加盟店や直近のイベントなども大切ですが、まちづくりを考えるとなると10年、20年の話ではないじゃないですか。自分たちがいなくなった後でも残るような長い目で見なくてはいけない事業もあります。電柱の地中化からはすでに20年近く経っているけど未だに魅力のひとつになっているし、100年先でもやってよかったよねと思われることを考えてゆきたいです。
——自分たちがいなくなった後もですか
そうです。実は私たちは曽祖父や祖父、父親など何もないところから桜新町を作り上げ、盛り上げてきた方々がいるから今、生活ができている訳です。なので私達も先代たちからの襷〔タスキ〕を受けとるだけではなくて、次の世代に渡していけないと思っています。
——どんなまちにしてゆくことが次の世代への襷〔タスキ〕になるのでしょうか
いい家を建てても手入れをしないと朽ちていくというじゃないですか。それはまちにも同じことがいえると思います。見える部分も見えない部分も欠かさず手入れをすることで長生きできるのではないかと思っています。年月を重ねるごとに価値を増すようなことが理想ですね。そのためにも空き店舗を作ってはいけないと思いますし、キレイなまちであり続けなくてはいけないと思います。
——あえて足りない部分を考えるとどんなことがあげられるでしょうか
団体競技のスポーツでもよく言われることですけど、みんなで同じ絵をみれるかどうか。多少の温度差はしょうがないと思いますが商店街理事はもちろん、チェーン店の店長さんもまちに対して同じ熱量や意識を持ってほしいです。
僕の想いが正しいとか正しくないとかではなく、多くの意見を出し合って、様々な人達を巻き込みながら盛り上がっていくことが必要だと思います。
——2022年11月にフジヤさんが閉店をしますが、なにか心境の変化などがあったのですか
お店は閉店するけど、自分の頭の中は何も変わらないということが分かったので新しい道へ進むことを決心しました。
実家を継いでお店も一生懸命にやってきましたがそれにも負けないくらい、商店街や消防団、青年部に神社のお祭りなど地域のことに携わってきました。これからはフジヤのパン通じて繋がっていた皆さんには新しいの形として、地域のことに対してはもう一本踏み込んで関わっていくだけで、今まで通り皆さんの声を聞きながら向き合っていくことは変わりません。変化があるとすれば早起きしてパンを作ることが無くなるくらいです。
そういいながらも70年続いていたお店を辞めることに対しては寂しさはあります。でも、だからこそ次の道をこれまで以上に頑張って行こうと思います。
——次は誰にお話を聞きましょうか。
同級生だし、敷島屋さんの敬ちゃんかな。断らないでね!
【店舗情報】 Fujiya
【 住 所 】 本 店 東京都世田谷区桜新町1-11-4
駅前店 東京都世田谷区桜新町2-10-2
【営業時間】 定休日 日曜日
本 店 8:00-15:00
駅前店 9:00-20:30
【電話番号】 03-3429-4581
聞き手 吉池拓磨(桜新町商店街振興組合スタッフ)
インタビュー日:2022年10月14日